修正バリュー平均法ver.2の記事では、オリジナルのバリュー平均法の、投資総額の制御ができないという、実運用上の重大問題に対応するべくバリュー平均法のアレンジについて考えました。
具体的には、直近のリターン実績に応じて、リスク資産と待機資金の比率を変化させることにより、投資総額の上限を守りつつ、バリュー平均法の効果が得られるかについて検証しました。その結果、一定のポテンシャルがあることが確認できました。
この記事では、リスク資産の比率算出のためのルール・パラメタの組み合わせを変えて、修正バリュー平均法ver.2のバックテストを行います。
ルールとパラメタ設定・バックテスト条件
バックテストはこれまでと同様、TOPIX、MSCI-KOKUSAI(JPYベース)に対して行います。ただし、3ヶ月毎の投資のケースのみとしています。これまでの検証で1か月毎のメリットが見いだせなかったためです。
リスク資産比率を、直近のリターン実績に応じて変化させます。具体的には、期待リターンr, 過去実績から求めた当該期間のリターンの標準偏差σをもとに、二次関数で計算することとします。
期待リターンはTOPIX、MSCI-KOKUSAIとも年率6%を3ヶ月当たりに換算した値、3ヶ月で1.47%としています。換算方法についてはリターンとリスクの年率換算方法をご参照ください。
3ヶ月当たりのリターンの標準偏差σは主要インデックスの期間別リターン・リスクと国別・通貨別比率で分析した値を参考に設定します。
TOPIXとMSCI-KOKUSAI(JPYベース)ではわずかに値が異なりますが(TOPIXは約10.32%、MSCI-KOKUSAIで約9.87%)、今回は厳密性より、わかりやすさ、比較のしやすさを重視して、TOPIXの3ヶ月当たりの標準偏差10.32%で統一します。
正確には、ほぼすべてのデータを取り終えてから、MSCI-KOKUSAIにTOPIXのσを適用していたことに気づき、「ま、いいか、このまま行こう、そんなに差ないし…、変化率のグラフも共通になるからかえってわかりやすいでしょ」になった次第です。
直近のリターンが、期待リターンrから4σずれたとき、リスク資産の比率がそれぞれ、5%, 15%, 25%, 35%変化する、4通りの傾きを試します。
一次関数ではなく、二次関数にしたのは、期待リターンrからのずれとリスク資産比率の変化量が比例となっているよりも、ずれが小さい場合はほとんど比率も動かさず、ずれが大きくなるしたがって比率も大きく変化するほうが、直観・好みにあっているためです
二次関数でテストした後、実はS字の関数(ロジスティックス関数など)のほうがより直観にあっているかも、と気づいたのですが、後述するように上限、下限でクリップしてしまうのでそう大きな差は出ないだろうと判断し、今回は二次関数のみとしています。
これらのパラメタをふまえた、リスク資産比率の変化は以下のグラフの通りです。
リスク資産の比率の許容範囲、すなわち上限と下限と、初期のリスク資産の比率をパラメタとして振ります。
上限は100%固定とし、下限を65%, 75%, 85%, 95%の4通りとします。
初期の比率は許容範囲の下限、中間、上限の3通りとします。
これ以外のバックテストの条件はこれまでの記事と同様です。詳しくは
の記事をご参照ください。
バックテスト
パラメタを振ってバックテストした結果のサマリです。
TOPIXとMSCI-KOKUSAIそれぞれについて、シャープレシオに4段階のランクを付けてあります。最大値と最小値の間を4分割して矢印アイコンでマーキングされています。
表中、背景色を付けたケースについて詳細を見てみます。修正バリュー平均法ver.2のケースは、一番シャープレシオが良くなったケースを選択しています。
TOPIXでの比較
MSCI-KOKUSAIでの比較
考察
所感・気づいた点をまとめます。
- リスク資産の比率の変化がはまれば、効率(主にシャープレシオで見ています)は上がるが、はまらなければ効率が落ちる。つまり値動きと、ルール・パラメタが偶然マッチすればいい結果となるが、外れればフルインベストメントに負ける。普遍的に効果があるパラメタの設定は難しい。
- 自分の心地よいルール、パラメタを見つけることができ、納得して実践できればよいが、強いこだわり、信念がない場合は納得感の観点で、フルインベストメントのほうが望ましい。
- 定率リバランス法の結果と比較すると、バリュー平均法の考え方のキモである「市場は過度に加熱したり、悲観的になったりする特性-ミーンリバージョンを利用する」の効果は一定程度認められる。
- TOPIXの場合、長期間市場が低迷したため、初期比率が低いものが、シャープレシオが高くなっている傾向が見受けられる。
- 修正バリュー平均法ver.2では、リスク資産と待機資金の比率を操作しているため、一度動かした比率を元に戻す明示的なきっかけがない点がネックになっている印象。逆方向の同程度の期待リターンからのずれがないと元の比率に戻らないため。たとえば、一度ドカンと4σ程度の下落があり、リスク資産比率が100%になった後、じりじりと値が戻るケース(平均からの逸脱が急激で、回帰がゆっくりだった場合)では、比率は元の4σの下落前の水準に戻らない。
- オリジナルのバリュー平均法は、(投資総額は考慮せず)リスク資産の評価額で制御しているためこの問題はない。毎回の投資でバリューパスに合わせることで平均への回帰が行われるため。
- 過去の値動きのデータを分析して、ミーンリバージョンの周期などがある程度一般化できるようであれば、大きな乖離で比率を一時的に変動→一定期間経過したら元に戻すといった単純なルールのほうが効果・納得感とも上がるはず。
- これまでは一つのリスク資産の検討のみ行ってきたが、実践では複数のアセットクラスからなるアセットアロケーションとの関係も考えていかなければいけない。
- リスク資産全体と待機資金の比率の制御という観点では、毎回の投資タイミングでリバランスしたうえで、リスク資産全体と待機資金の比率を制御することになる。
- 複数アセットクラスで構成されるポートフォリオならではの利用方法として、アセットアロケーションを一時的に変更するというアプローチもありうる(全体のリスク許容度の範囲内でという大前提のもと)。直近のリターン実績の期待からの乖離具合に応じてオーバーウェイト、ニュートラル、アンダーウェイトを制御するイメージ。
- 許容できるリスク範囲内でのフルインベストメントを基本とし、スパイスとしてバリュー平均法のエッセンスを数滴たらして気休めとする、というのが当面の実践としては現実的な印象。
自分はどうするか?
現時点で「当面はこうするかなー」というアイデアをまとめておきます。アセットアロケーションなど全体がまとまったら投資方針書の更新として改めて公開(宣言)する予定です。
あと9ヶ月間くらいは、リスク資産のランプアップ期間(無リスク資産からリスク資産への移動:高値づかみを避けるための気休めの時間分散)の予定です。
このフェーズでは、リスク資産への投資は3ヶ月毎に行います。投資タイミングで、各資産クラスへの投資金額を調整することにより、目標のアセットアロケーションに近づくよう、ノーセルでのリバランスを行うことにします。
ランプアップが完了して、定常的な積み立てフェーズに入ったら、毎月の収入から投資に向ける金額をリザーブ資金としてプールし、3か月に一度、リスク資産へ投資することにします。この時も同様にノーセルリバランスで目標のアセットアロケーションに近づくようにします。
そう、コツコツ投資日記のつばささん(@m_tsubasa)の、投資方針書<2014年版><追記あり>にある方法と一緒です。
投資のタイミングでノーセルでのリバランスを原則としますが、すでに確定させた大きな損失があるので(涙)、この損が損益通算できる間は、セルありリバランスにするかもしれません。
バリュー平均法については、引き続き修正バリュー平均法ver.2の延長線上で検討を続けます。
今回の検討の結果を踏まえて、リスク資産全体の比率の許容範囲を高い位置で狭く制限したうえで(たとえば90%-100%)、バリュー平均法のエッセンスを味わえるような方向性で検討する予定です。
リターン、投資効率(リスク当たりのリターン)の向上を目指して、というよりは、インデックス投資の退屈しのぎ、完全に市場のなすがままではなく、多少なりとも自分も工夫しているぞという満足感・納得感(大勢には影響を与えない範囲で、無力感に対するささやかな抵抗)を得たいという意味合いが強くなっています。
比率の範囲は高位で狭くすることは確定なので、心地の良い比率の変え方が検討のポイントになります。
ただ、バリュー平均法の検討については、ライフワーク的な長期テーマの位置づけとし、急いで結果をまとめることには執着しないことにします。
それよりも先に勉強・検討すべき項目が山積みなので、ウェイトをそちらに移す予定です。リスク管理、アセットアロケーション、リバランス、債券をはじめとする株式クラス以外のアセットクラス、為替などなど。
とはいえ、バリュー平均法には依然として魅力・可能性を感じていますし、ブログの主要テーマの一つでもあることから(成績を楽しみにしてくださっている方も多いと信じて)、サテライトポートフォリオとして、バランスファンド(世界経済インデックスファンド株式シフト)を使って、ごく少額ですがオリジナルのバリュー平均法を実践します。
こうご期待….
コメント
内容が難しくて話の半分も理解できないのですが、実用性のあるバリュー平均法の構築は難しいということなんでしょうか?
バリュー平均法も良さそうなら、取り入れようと思っています。
私はインデックスファンドを使った投資法を2つ用いているのですが、バックテストのやり方が分からなくて、上手くいくだろう投資になっています。
バックテストで有用性の確認が出来たらいいんですが・・・。
コメントありがとうございます。読んでくださる方がいると励みになります。
バリュー平均法は、マーケットの動きが小幅の範囲で、上がったり下がったりして、ならしてみると、平均から乖離してまた戻ってくるを繰り返している限りは実践可能ですし、それなりに効果はあると考えています。
ただ、バリュー平均法を実践するうえでの最大の問題は、投資に向ける資産の総額を管理していない点にあります。たとえば、マーケットが20%下落した場合、次の積み立て投資のタイミングでその20%の下落分を追加投資しなくてはいけないのですが、この資金をどこにどう取っておくのか、といった観点が弱いです。資産が積みあがってリスク資産が1000万円になった時点で20%の下落があった場合、単純計算で200万円を追加投資しなくてはいけなくなります。
バリュー平均法では将来の投資用にとっておく資金を待機資金と呼んでいますが、この待機資金をどう確保するかという問題と、待機資金を持つことによる機会損失(儲け損ない)がネックと感じいろいろアレンジを検討してきました。
そのアレンジ法も、パラメタの設定次第で結果が大きく変わり、普遍的に効果のあるパラメタの設定は難しそう、というのが今回の記事の内容になります。
何か独自の積み立て方法を取られているようでしたら、一度いくつかの過去データをつかってバックテストされたほうがやはりいいですよね。
あくまで過去のデータに対する結果なので将来を保証できるものではないですが、どういう値動きをしたらどういう結果になるかは参考になると思います。
投資対象のインデックスないしファンドの基準価額の時系列データと表計算ソフトがあれば割と簡単に計算できますよ。慣れるまではちょっと大変ですが、慣れれば簡単です。
私は、こんなブログをやってるくらいで、少しひねった積み立て投資法に大変興味があります。結果がでましたら何らかの形で公開していただくことを是非検討していただきたいです(^^)。
インデックス投資で工夫できるのは、アセットアロケーション、リバランス方法、積み立て投資手法くらいかなという気がしているので。
コメント返信をしてからブログのアドレスをいただいていることに気が付き遅ればせながら拝読いたしました。インデックスのファンダメンタル面をみてTAAされているんですね!おもしろそうですね。
バリュー平均法も、待機資金もポートフォリオの一部としてとらえると、直近のリターン実績の期待リターンからの乖離具合にもとづく、なんちゃってTAAといってもいいかもしれません。修正バリュー平均法ver.2は、これを公式化してみたらどうなるだろう?という試みです。
早速のご回答ありがとうございます。
やはり待機資金がネックなんですね。
私もそれが気になって、というか無理だろうと思い本格検討までには至っておりません。
実用的なバリュー平均法を考案されることを期待しています!
私の投資法は暴落時にはアセットアロケーションを崩してリターンを取りに行くという手法です。
バリュー投資家が暴落時の突っ込み買いで大成功しているのを見て、インデックス投資にも活かせるのではないかと思い考案しました。
もう一つはトレンドを利用した投資法で、バックテストの結果では年率17%のリターンが得られているようです。もっとも、これは私が考案したものではないので、詳しくは語れませんが・・・。
森村ヒロ様
初めまして、たろけんこと林と言います。
緻密な分析記事、大変参考になりました。
僕もバリュー平均法に興味があって、
MSCIコクサイの過去データを使っていろいろ分析してみましたが
なかなか思うような成果が出ず、難航しております。
特に投資資金が大きくなってからリーマンショックのような
大幅な上下が来たときに、投資額が極端に大きくなってしまい
DCA法よりも多くの投資資金を投入しないといけないか、
もしくは投資上限額をDCA法に合わせてしまうと、
パフォーマンスがDCA法に負けてしまうという結果を得てしまいました…orz
なかなか難しい、というか投資の奥深さを痛感しています。
VA法は仰るとおり、パフォーマンスを求めるというよりは、
工夫しながらやっているという実感効果の方が、
大きいかも知れません。
では、また訪問させていただきます。