先日の日興AMの国内ETF(1680, 1681)がリターンパフォーマンスでボロ負けしているので問い合わせてみましたの記事のフォローアップとして、主要インデックスファンドのトラッキングエラーを詳細に分析してみます。
MSCIでは、一つのインデックスについて、配当の扱い別にprice, net, grossの3つを提供しています。それぞれ
- priceは配当の再投資なし
- netは配当に対して外国居住者向け税率で課税、源泉徴収後に再投資(租税条約がない国に居住している人を想定した課税後の再投資)
- grossは配当を課税なしで再投資
とされています。この記事では、これら3種類のインデックスに対するトラッキングエラーを分析します。
MSCIのインデックスの構成の詳細については、時価総額別のリスクの分析―等金額ウェイトインデックスに向けておよびそこからリンクされているMSCIの情報をご参照ください。
今回はまず、MSCI-KOKUSAIを連動対象とするインデックスファンドについて調べてみます。
背景
本記事の背景について軽く触れておきます。
先日、日興AMの国内ETF(1680, 1681)がリターンパフォーマンスでボロ負けしているので問い合わせてみましたの記事を公開した後、多くの方より、Twitterなどでコメントをいただきまして、インデックスファンドのベンチマークの配当の扱いには根深い問題があることを知りました。
(少なくとも私が想定していたよりは)記事の反響が大きかったこともあり、誤解・適切でない認識が広まることを防ぐべく、記事公開後にご指摘いただいた内容や補足を「追記」として追加いたしました。
その追記に記載したことも含めて、根深い問題のポイントは
- インデックスファンドは、ベンチマークとの乖離(トラッキングエラー)が少ないものが優れた運用とされる。
- それにもかかわらず、ベンチマークが配当無しなのか、配当込みなのかが明示されていない。
- 月次報告書には、ベンチマークとして期間別リターンが表示されていて、それが配当無しか、配当込みなのかは調べればわかるが、多くのファンドで配当無しをベンチマークとし、プラス方向のトラッキングエラーを表示している。
- ベンチマークに対して、大きくプラス方向に乖離していて平気な顔をしているということになる。
- ブロガーミーティングなど非公式な場で、とあるファンド側から「ベンチマークは配当無しだが、運用は配当込みを意識している」という発言があったなど、ファンド側にも本音と建て前があるようでベンチマークについてあいまいにするのが慣習化してしまっている。
- 投資家の立場からすると、インデックスファンドのリターンが、配当無しインデックス、というのは納得しにくい。現物とほぼ同じリスクを負っているにもかかわらずインカムゲイン分が得られないというのは納得しにくい。
- 配当込みのインデックスから課税分と運用コストを控除した程度は期待したく、各ファンドではこの控除分を可能な限り圧縮するような努力・競争=適正な範囲でのコスト低減の努力してほしい。
- ただし、インデックスファンドなので、パッシブ運用以上のリスクをとってより高いリターンを目指して欲しいというわけではない(そういう向きが選ぶべきはインデックスファンドではなくアクティブファンドである)。
と認識しています。
先の記事では、期間別リターンベースでの分析のみで各インデックスファンドのトラッキングエラーの具体的内容については不明な状態でした。今回、ようやく、準備が整ったので詳細を見てみることにします。
分析対象のインデックスファンド
分析対象のインデックスファンドはMSCI-KOKUSAIを連動目標とする以下の投資信託とETFとします。カッコ内は、以下の文章や図表で用いる略称です。
- SMT グローバル株式インデックス・オープン [SMT]
- 外国株式インデックスe [インデックスe]
- eMAXIS先進国株式インデックス [eMAXIS]
- 1550 MAXIS海外株式(MSCIコクサイ)上場投信 [1550]
- 1680 上場インデックスファンド海外先進国株式(MSCI-KOKUSAI) (愛称:上場MSCIコクサイ株) [1680]
- <購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド[ニッセイ]
- 野村インデックスファンド・外国株式(愛称:Funds-i 外国株式) [Funds-i]
- インデックスファンド海外株式(ヘッジなし)(愛称:DC インデックス海外株式(ヘッジなし)) [DCインデックス]
iSharesのTOKとそのJDRである国内ETFの1581は、基準価額が日本の金融機関営業日と少し異なる部分があり、同じ土俵で分析するには手間がかかること、やればできないことはないが、個人的にTOK/1581は、MSCI-KOKUSAIをベンチマークとする日本籍の優れたインデックスファンドが数多くそろっている今日、積極的に選択候補としにくいことから対象外としました(TOKは外国市場上場ですし、1581はJDRゆえの分配金課税がややこしそうです)。
分析方法
MSCI-KOKUSAIのprice, net, gross、インデックスファンド(投資信託およびETF)の、日次の基準価額をもとにトラッキングエラーを計算します。
MSCI-KOKUSAIのprice, net, grossについては、MSCI BARRAから入手したUSDベースの基準価額と、三菱東京UFJ銀行から入手したUSDJPYのTTMをもとにして計算した、日本円ベース基準価額を用います。
計算は日本のインデックスファンドの計算方法に合わせます。楽天証券の基準価額決定、約定確認のタイミングは?などが参考になります。
インデックスファンドの基準価額は、分配金(税引き前)を再投資したものとします。
使用するデータは2011年12月1日から2014年11月28日までの3年間の日次データです。ただし、ニッセイについては設定日である2013年12月10日からとします。
日次のトラッキングエラーの累積、日次のトラッキングエラーの統計(平均・標準偏差・最小・最大)、期間別リターンを図表でみてみます。
累積トラッキングエラー
price, net, grossに対する、3年間の累積トラッキングエラーです。ニッセイは設定日が2013年12月10日のため、このグラフには含めていません。
price, net, grossに対する、2013年12月10日からの累積トラッキングエラーです。ニッセイが加わっています。
トラッキングエラーの統計(平均・標準偏差・最小・最大)
期間別リターン
考察
累積トラッキングエラー、トラッキングエラーの統計を見ると、1680だけが明らかに他のインデックスファンドと状況が異なることがわかります。トラッキングエラーがマイナス方向に大きく、ばらつきの程度を表す標準偏差も他よりも大きくなっています。現物運用と先物中心の運用の違いに由来するのでしょうか。ただ、直近では回復傾向にあるようにも見えます。
各ファンドとも、対priceについては有意にプラス方向に乖離がみられます。投資家の期待通り、インカムゲインが分配金と基準価額を加えたトータルリターンに反映されていることがわかります。
対net, 対grossに対する累積トラッキングエラーをみると、1550 > インデックスe > SMT > Funds-i > eMAXIS > DCインデックス > 1680の順に、だんだんマイナス方向の乖離が大きくなっています(先のほうがマイナス方向の乖離が少なくたいていの投資家にとっては望ましい)。
ただし(1680を除くと)、トラッキングエラーの標準偏差は各インデックスファンドとも大きな差は見られません。累積トラッキングエラーのほうに出ている差は、信託財産留保額の有無を含めた、信託報酬以外のコストなどの処理方法の違いに由来しているのかもしれません(何の根拠もない推測。裏を取るならば日次のトラッキングエラーとその要因を調べる必要があります)。
1550は対net, 対grossにおいて、累積トラッキングエラーが少なくなっており、期間別リターンでも優れています。運用コストの低さがそのまま効果として表れているようです。
ニッセイは少し心配になってしまう結果です。累積トラッキングエラーが、直近で大きくマイナス方向に振れてしまっていること、期間別リターンで他のインデックスファンドに劣後してしまっています。分析の基準日時点で設定後1年経過していないことが影響している可能性がありますが(初年度はいろいろコストがかさむというのをどこかで読んだ記憶があります&もっともだと思います)、今後しばらくの間は注視していく必要があります。
今回の分析で、1680以外は各インデックスファンドは傾向的には大きな差・問題がないことが確認できたといってよいと考えます。このことより、個人的には、MSCI-KOKUSAIについては、今後の定期的なインデックスファンドのモニタリングは、実質コストおよび、期間別リターンの確認とnet, grossとの比較、でほぼ間に合うかな、という印象です。とはいえ、(1680と、設定後間もないニッセイはともかく)いずれも大きな差はなく、すごい高いレベルでの微妙な差、頂上決戦ですので実際のところそれほど気にする必要はないのかもしれません。
実質コストについては、いっさん(@tigers_mr2)の資産形成は時の流れにまかせて。の記事電話取材!SMT新興国株式インデックスの実質コスト急騰の件にあるように突発的に信託報酬以外の運用コストがかさむことが起こりえますが、投資家の立場で事前に察知し回避するのは難しいので、継続的・定常的に高コストになっていないかをチェックすることになります。
期間別リターンについては、じゅん@さん(@junatmark)の投信で手堅くlay-up!の記事外国株式インデックスファンドまとめ(2014年9月)のような確認&MSCIのnet, grossの同一期間リターンとの比較をすることになります。
追記
実質コスト、ベンチマークとしてprice, net, grossの期間別リターン、今回調べたようなトラッキングエラーの詳細など、投資家・ブロガーたちが計算したがるようなデータは月次報告書などで積極的に開示するようにしていただけると、うれしいです。
最初は手間はかかるでしょうけど仕組みとテンプレートさえできてしまえばほぼ自動でしょうし、ブロガーなどによる、正確ではないかもしなれい情報が広まるリスクも防げるなど、双方にとってハッピーで、よりよい投資環境の構築につながるはずです。
2015年1月11日、Funds-iとDCインデックスのデータを追加し、図表入れ替え、文章・考察の調整を行いました。
追記:分析に使用したMSCIインデックスデータおよび為替データの詳細
(以前の記事:日興AMの国内ETF(1680, 1681)がリターンパフォーマンスでボロ負けしているので問い合わせてみましたで、根が深い問題であることを理解したこともあり)データの客観性および再現性確保のために、分析方法の節で、データの出所を紹介しておりましたが、詳細を省略しすぎてしまい、再現しにくい状況でしたので、こちらで補足いたします(2015年1月13日)。
MSCI BARRAのサイト(MSCI BARRAはMSCIの関連会社と認識しております)からデータを取得していたつもりですが、よく確認してみるとwww.mscibarra.comはwww.msci.comに転送されておりました(2015年1月13日時点で確認)。この記事で使用したデータと、2015年1月13日に取得できるデータの同一性確認まではやってません。
このMSCIのサイトでは、各種MSCIインデックスのデータを取得することができます。この記事での分析にはこのデータを用いています。
データ閲覧とダウンロードをするためには利用許諾を承諾する必要があり、かつ、インタラクティブページになっています。そのため、直接リンクをすることが困難なので、以下で取得方法をご紹介いたします
以下はMSCI KOKUSAIの例です。指数に関する選択肢を変えることによりほかの指数(たとえばEM)も同様の流れで取得できるようになっています。
MSCIのトップページから、Indexesを選択→Developed Markets(DM)→Performanceと選択していくと、Additional Terms of Useの確認があります。内容を確認して問題なければ(商用利用しないことなどが規定されています)AGREEを選択、指数の一覧が表示されるので、KOKUSAI INDEX (WORLD ex JP)を選択。ようやく、グラフが表示されるので、期間や、Index Level(price, net, gross)、Frequency(daily, monthly, yearly)などを設定・Updateし、Download Dataでデータが取得できます。
期間とFrequencyの組み合わせなどに制約があるようで、長い期間の日次データを取得しようとすると、勝手にMonthlyになったりすることがあるので少し注意して操作する必要があります。
三菱東京UFJ銀行の発表するTTM(対顧客直物電信売買相場の仲値)は、三菱東京UFJ銀行-外国為替相場から閲覧・ダウンロードが可能です。
外貨(USD)の日本円への換算に利用する為替相場を三菱東京UFJ銀行が発表するTTMにした根拠は、一般社団法人投資信託協会による刊行物「日本の投資信託2013(刊行物一覧、直接リンク)」の「5.基準価額の計算」にある記載です。以下に当該部分を引用します。
また、外貨建資産を邦貨に換算する場合に使用する為替相場は、原則として三菱東京UFJ銀行が発表する計算日の対顧客直物電信売買相場の仲値によることとされている。
また、ファンド運用会社のFAQなどでも、三菱東京UFJ銀行が発表する計算日の対顧客直物電信売買相場の仲値を利用していることが紹介されています(例えば、ニッセイアセットマネジメント株式会社のFAQのQ1)
他方、「一般社団法人投資信託協会が発表している為替レート」としている運用会社もあります(例えば、みずほ投信投資顧問株式会社のFAQのQ4)。
ただ、当方で投資信託協会のページを探した限りでは、投資信託協会が発表している為替レートを見つけることができませんでした(2015年1月13日現在)。