先日、日興AMの国内ETF(1680, 1681)がリターンパフォーマンスでボロ負けしているので問い合わせてみましたの記事のフォローアップとして、主要インデックスファンドのトラッキングエラー分析(MSCI-KOKUSAI編)で、MSCI-KOKUSAIを連動目標とする主要インデックスファンドのトラッキングエラーを詳細に分析してみました。
今回は同様の分析を、MSCI-EM(MSCI-エマージング)を連動目標とする主要インデックスファンドに対して行ってみます。
MSCIでは、一つのインデックスについて、配当の扱い別にprice, net, grossの3つを提供しています。それぞれ
- priceは配当の再投資なし
- netは配当に対して外国居住者向け税率で課税、源泉徴収後に再投資(租税条約がない国に居住している人を想定した課税後の再投資)
- grossは配当を課税なしで再投資
とされています。この記事では、これら3種類のインデックスに対するトラッキングエラーを分析します。
MSCIのインデックスの構成の詳細については、時価総額別のリスクの分析―等金額ウェイトインデックスに向けておよびそこからリンクされているMSCIの情報をご参照ください。
この分析の背景、分析方法については、主要インデックスファンドのトラッキングエラー分析(MSCI-KOKUSAI編)の記事をご参照ください。
背景
主要インデックスファンドのトラッキングエラー分析(MSCI-KOKUSAI編)の記事をご参照ください。
分析対象のインデックスファンド
分析対象のインデックスファンドはMSCI-EMを連動目標とする以下の投資信託とETFとします。カッコ内は、以下の文章や図表で用いる略称です。
- SMT 新興国株式インデックス・オープン [SMT]
- eMAXIS 新興国株式インデックス [eMAXIS]
- 1681 上場インデックスファンド海外新興国株式(MSCIエマージング) (愛称:上場MSCIエマージング株) [1681]
- 野村インデックスファンド・新興国株式(愛称:Funds-i 新興国株式) [Funds-i]
- インデックスファンド海外新興国(エマージング)株式(愛称:DCインデックス海外新興国株式) [DCインデックス]
各ファンドの基準価額は、DCインデックスはモーニングスターのページから、それ以外はそれぞれの運用会社の公式ページから取得した日次データを利用しています。分配金は課税なしで再投資したものとして計算しています。
分析方法
主要インデックスファンドのトラッキングエラー分析(MSCI-KOKUSAI編)の記事をご参照ください。
累積トラッキングエラー
price, net, grossに対する、3年間の累積トラッキングエラーです。
トラッキングエラーの統計(平均・標準偏差・最小・最大)
期間別リターン
考察
累積トラッキングエラーを見ると、1681だけが明らかに他のインデックスファンドと状況が異なることがわかります。配当込指数のnet, grossに対してトラッキングエラーがマイナス方向に大きくなっています。対net, grossのトラッキングエラーの平均が、比較対象ファンド中もっともマイナス方向に大きく、標準偏差も他に比べると大きいようです。
各ファンドとも、対priceについては有意にプラス方向に乖離がみられます。投資家の期待通り、インカムゲインが分配金と基準価額を加えたトータルリターンに反映されていることがわかります。
対net, grossの累積トラッキングエラーをみると、Funds-i > SMT = eMAXIS > DCインデックス > 1681の順に、だんだんマイナス方向の乖離が大きくなっています(先のほうがマイナス方向の乖離が少なくたいていの投資家にとっては望ましい)。
(1681はともかく)目論見書上の信託報酬率が最安のDCインデックスが苦戦している点、信託報酬が0.648%と同じ3ファンド(SMT, eMAXIS, Funds-i)でも差が出ている点などが興味深いです。新興国株式は信託報酬に出てこないその他の費用の影響が大きいのかもしれません。
トラッキングエラーの統計を見てみると、平均は似たような値でも、標準偏差はファンドにより差が出ているようです(と言っても0.01%前後)。標準偏差だけでいうとeMAXISが最大になっています。Funds-iが対net, grossに対するマイナス方向のトラッキングエラーの平均と標準偏差も最小となっています。
今回の分析で、MSCI-EMのインデックスファンドについても、MSCI-KOKUSAI同様、1681以外は各インデックスファンドは傾向的には大きな差・問題がないことが確認できたといってよいと考えます。
このことより、個人的には、MSCI-EMについても、今後の定期的なインデックスファンドのモニタリングは、実質コストおよび、期間別リターンの確認とnet, grossとの比較、でほぼ間に合うかな、という印象です。とはいえ、(1681はともかく)いずれも大きな差はなく、すごい高いレベルでの微妙な差、頂上決戦ですので実際のところそれほど気にする必要はないのかもしれません。
実質コストについては、いっさん(@tigers_mr2)の資産形成は時の流れにまかせて。の記事電話取材!SMT新興国株式インデックスの実質コスト急騰の件にあるように突発的に信託報酬以外の運用コストがかさむことが起こりえますが、投資家の立場で事前に察知し回避するのは難しいので、継続的・定常的に高コストになっていないかをチェックすることになります。
期間別リターンについては、じゅん@さん(@junatmark)の投信で手堅くlay-up!の記事外国株式インデックスファンドまとめ(2014年9月)のような確認&MSCIのnet, grossの同一期間リターンとの比較をすることになります。
追記
実質コスト、ベンチマークとしてprice, net, grossの期間別リターン、今回調べたようなトラッキングエラーの詳細など、投資家・ブロガーたちが計算したがるようなデータは月次報告書などで積極的に開示するようにしていただけると、うれしいです。
最初は手間はかかるでしょうけど仕組みとテンプレートさえできてしまえばほぼ自動でしょうし、ブロガーなどによる、正確ではないかもしれない情報が広まるリスクも防げるなど、双方にとってハッピーで、よりよい投資環境の構築につながるはずです。